とある番組で「隠れ脂肪肝」が特集されましたね〜
実は、私、脂質代謝系の研究をしてるんです。そのため、この記事は本当に書きづらい。
なぜかと言うと、色々しがらみとか人間関係とか、番組に出ていた知り合いの先生のメンツも守らなきゃだし…
(とある番組に出ていた先生方は、視聴者に誤解を与えないよう注意しながらコメントしていて本当に尊敬の念を抱きました。すごいです。しかも、あれ、生放送でしたよね)
さらに秘匿事項もあり細心の注意を払いながら書かなきゃならないんです。
では、なぜ筆を取ったのか
それは、ひとえに、「隠れ脂肪肝やその対処法」について、一般の方々に誤解して欲しくないためです。
この前の番組でも、安直な行動を促すような編集がなされていたため、
「実際はこうなんだよ〜」ってことを皆さんに知って欲しくて筆を取りました。
隠れ脂肪肝とは
「隠れ脂肪肝」は専門用語で言うと「非アルコール性脂肪肝」のことを表しています。
隠れ脂肪肝について説明する前に、脂肪肝のおさらいです。
脂肪肝はアルコール性脂肪肝と非アルコール性脂肪肝の2種類に分類できます。
この2つは何が違うのか。
それは、アルコールが関係しているかしていないかです。
アルコール性脂肪肝
よく巷では、アルコールの過剰摂取で肝硬変になるとか聞きますよね。
肝臓は解毒作用を持っているため、アルコールを摂取すると肝臓では毒であるアルコールをせっせと分解して、無害な酢酸に変えるんです。
しかし、アルコールを酢酸まで分解するには、沢山のエネルギーが必要なんです。
アルコール分解にエネルギーを使ってしまうと…
今度は、中性脂肪を分解するためのエネルギーが不足してしまい、肝臓に中性脂肪が溜まり、脂肪肝になってしまいます。
これが、アルコール性脂肪肝
非アルコール性脂肪肝
肝臓では、大量の糖分や脂肪を摂取した場合、余分な脂質や糖分を肝臓で中性脂肪に変換して貯蓄します。
そして、過剰に蓄積した中性脂肪により肝臓は、脂肪肝になります。
こちらは、アルコールが関与しないため
非アルコール性脂肪肝と命名されています。
果糖摂取は脂肪肝になりやすい?
これって、一概に言えないんですよね。
糖の過剰摂取で非アルコール性脂肪肝になりやすくなるのは事実です。
しかし、糖って言っても
- グルコース(ブドウ糖)
- フルクトース(果糖)
- ラクトース(乳糖)
などなど、様々な種類があります。
ちなみに、果糖は果物に含まれています。
そして、とある番組では
果糖の取りすぎが危ない
と言う話がなされていました。
確かにこれは事実です。
実際に、マウスに果糖を与えると、すぐに急性の非アルコール性脂肪肝を発症します。
かなり重篤な脂肪肝です。
これは、研究者の間でも驚愕の研究結果だったんですよね。
果糖は実は、非アルコール性脂肪肝を引き起こす有害物質なのではないかと…
では、人への影響はどうなよか
皆さん、普段から果物を摂取しますよね。
時には、大量に食べてしまうこともありますよね。
ですが、実は未だに人では通常量の果糖の摂取がどれくらい脂肪肝に影響しているかわからないんです。
ただ、過剰摂取の場合は、脂肪肝に影響を及ぼすってことは分かってますよ!
なので、果物とか果物ジュースを過剰摂取してる人は絶対に気をつけた方がいいです。
話を戻しますと、
では、なぜヒトでは未だに果糖の脂肪肝への影響が分かっていないのか…
それは、マウスとヒトは同じ、脊椎動物で、哺乳類で、どちらも肝臓を持っていますが、
全く同じ機能を持っているわけではないからです。
ヒトとマウスでは遺伝子の種類やその発現メカニズムなど色々異なる箇所が存在します。
そのため、マウスでは果糖によって簡単に脂肪肝になりますが、ヒトではマウスより脂肪肝になりにくいのです。
理由はまだよく分かっていませんが、ただ単に、マウスでは果糖を代謝する能力が低く、ヒトでは進化の過程で、果糖の代謝能力が上昇しただけなのかもしれません。
また、最近の報告で、摂取された果糖の90%は小腸で代謝されることが明らかになりました。そのため、適度な量の果糖摂取では、摂取した果糖のほとんどは小腸で代謝されるため、肝臓に到達せず、果糖が脂肪肝の原因にはならないということが示唆されました。
つまり、通常量の果糖摂取は非アルコール性脂肪肝の原因にならないかもしれないという報告がなされたのです。
このように、まだまだ、色々な説が提唱されており、適切な量の果糖が非アルコール性脂肪肝の発症にどの程度関与するかは明らかになっていないのです。
しかし、過剰摂取は絶対に良くないので、やめたほうがいいです。
まあ過剰に摂取しなければ大丈夫だと思います。
大豆は非アルコール性脂肪肝改善に良い?
とある番組で「大豆」が非アルコール性脂肪肝改善に効果があると放送されました。
(専門家の先生は、断定した言い方はしておらず、期待できると言っていましたが、番組の編集ではあたかも効果があるかのように放送されていました。おそらく専門家の先生は、断定したくなかったのではないでしょうか。だって、まだヒトでは詳細な研究結果が得られてないのですから)
本題に戻ります。
時折、話題になる「大豆」
今回は、その大豆に含まれる「β-コングリシニン」が脂肪肝を改善するという放送だったわけですが、
大豆には約20%のβ-コングリシニンが含まれています。
かなり多く含まれているんですよ。
通常、食品中に含まれる機能性成分は食品中に微量にしか存在しないため、
もし大量に摂取するとなると食品から抽出し、濃縮する必要があります。
しかし、大豆中には約20%のβ-コングリシニンが存在するため、
大豆を過剰に摂取すれば、
大量のβ-コングリシニンを摂取することは可能だと思います。
そうなると、お家で簡単に脂肪肝を改善できそうですよね。
そう思ったあなた、ちょっと待ってください
実は危険な落とし穴があるんです。
過去を振り返っていただきたいのですが、
少し前まで、豆腐や納豆など大豆ブームがありましたよね。
しかも、大豆中のイソフラボンとかすごい注目されましたよね。
しかし、ここ最近、大豆ブームとかイソフラボンとかって聞きませんよね。
何故だと、思いますか。
実は、イソフラボンの過剰摂取が問題視されたからです。
何が問題なのか。
イソフラボンって女性ホルモンと構造が似ているんです。
女性ホルモンと構造が似ているということは
イソフラボンは女性ホルモンと同様の効果を発揮してしまう可能性があるということです。
そして、生体内での女性ホルモンの作用をさらに高めてしまう可能性があるんです。
そうすると、乳がんや心疾患などの発症リスクが高くなってしまう可能性があるため、食品安全委員会が大豆イソフラボンの安全性について調査に乗り出したんです。
結果は、
- 今のデータ量では、大豆イソフラボンが有害とは言えない。
- 適切な量の摂取では大丈夫
- 過剰摂取はあまり推奨しない
とのこと。
ブームになると皆な一斉に大量購入・大量消費しだしますよね。
(昔、納豆がなくなる事件とかありましたよね。)
ですので、ブームになって大量消費されてしまうと安全性が担保できなくなってしまうため、大豆ブームは自粛されるようになっていったみたいです。
このことを考えると、
今回も大豆に含有されるβ-コングリシニンが脂肪肝改善に良いからといって、大豆を大量に摂取することはやめたほうがいいです。
実は、大豆による脂肪肝改善を報告した論文では、9週間マウスに投与し続けています。
この結果を考慮すると、適切な量の大豆を長期間摂取するだけでも脂肪肝改善に効果があるかもしれません。
まだ、ヒトでは実証されていないため確かなことは言えませんが、
一つはっきり言えることは、
「大豆の大量摂取はやめましょう。もし大豆を摂取して脂肪肝が改善するか試したいなら、医師にまず相談し、適切な量を長期間摂取し続けることが今のところ無難だと思います。」
最後に
長々と書きましたが、
食品成分で病気を直すって難しいんですよね。食品って色々な物質が少ない量含まれているため、体に効果が出るようにするためには、食品からその成分を抽出・濃縮しなければなりません。
しかし、それってもはや「薬」なんです。
それなら、薬を飲めばいいということになります。
となると、食品にこだわる理由ってなんですかね。
おそらく
- 簡単に調達できるものが多い
- 自分で対策できる
- 比較的安価
とかじゃないですかね。
ですが、本当の食品の成分に機能性や有効性の意味とは、病気を防ぐところにあると思いませんか。
しかし、病気を防ぐって、一つの食品中の成分だけでは、到底成し遂げられませんよね。
バランスよく食品を食べ、バランスよく食品中の成分を摂取するから病気を未然に防げるんですよね。
これって、普段からバランスの良い食生活を気をつけましょうってことですよね。
私もそうですが、皆さん体に良い食品を求めがちですが、基本はやはり栄養バランスの良い食生活です。
講釈たれて申し訳ありませんが、体に良いからという理由で一つの食品をとるのではなく、栄養バランスの良い食生活を心がけることが一番体に良いのだと私は思います。
いつもは、イタリア旅行の記事など書いてます。そちらも一読いただければ幸いです。